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ナイトキャップ

「なぁ、それなんだ?」
 それは、野営の準備が整い、簡単な食事をとり、男女別の仮の寝床も確保した頃だった。
「え?」
 マリアが振り返ると、アデルは不思議そうな顔をして彼女の手にある物を指さす。
「その布だよ。」
「ああ、これはね…」
 マリアは布を広げて頭にすぽんと被る。それは、厚手の綿でつくられた三角錐形の帽子だった。
「ナイトキャップよ。私の髪って癖が強いから、寝ている間に絡まってしまうの。それを防ぐために、こうやって…」
 マリアは頭上に一つに束ねた亜麻色の髪を帽子の中に入れていく。全て入れ終えると、彼女はにっこり笑った。
「こうすれば寝相を気にせずに、土や草で髪を傷める心配もせずに寝られるでしょう」
「ふ〜ん、便利な物があるんだな」
 アデルは納得顔で頷き、ふと思い出したかのように言った。
「なあ、それ紳士用もあるのか?」
「あると思うけど、どうしてそんなこと聞くの?」
「いや、あいつは使わないのかなぁと思って」
 アデルは頭を巡らす。黒瞳が見つめる先には、ラムザがいた。たき火の側でイゴールと何かを話しながら剣の手入れをしている。熾火の照り返しで、その金髪はより鮮やかに輝いていた。
 マリアは首を捻って、思ったままを告げた。
「ラムザの髪はほぼストレートに近いから、必要ないのかも」
「直毛だと違うのか?」
「そうよ。私は柔らかめだから癖が余計目立つけど、彼の髪はコシがあって強そうだわ。しかも、見事な金色。貴婦人の憧れね」
「ふ〜ん、そんなものかぁ。でも、俺はお前の髪の色、好きだぜ。収穫直前の小麦畑のようで」
 まっすぐ向けられた黒い瞳は、真剣そのもの。
 マリアは途端に顔が赤くなるのを自覚した。
「…あ、ありがとう」
 とっさにそう呟き、そして、今日が月のない闇夜であることに彼女は心から感謝した。

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