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真白き衣装に身を包んで

 アグリアスにとって一生で一番大切な一日になるであろうその日、最初に彼女の前に現れたのはメリアドールとレーゼの二人だった。彼女たちの姿を一瞥し、アグリアスは不審に思う。彼女たちは、武装こそはしていないが、かつての旅で愛用していた実用性一点張りで飾り気のない衣服を着ていたからだ。それに、二人とも大きな旅行用の鞄を携えている。
(招待状に趣旨を書き忘れただろうか?)
 不安になったアグリアスだが、
「おめでとう」
「ここまで長かったわね。端から見ていてじれったかったわ」
 満面の笑みを浮かべるレーゼと口では揶揄していても目は限りなく優しいメリアドールによって、不安の影は淡雪のように溶けていった。
「二人ともはるばる遠路から来てくれてありがとう。感謝する」
「当たり前よ。呼んでくれなかったら剛剣をお見舞いしてやったわ」
 深緑の瞳が悪戯っぽく笑った。
「アグリアス、あなたの衣装はどこにあるの?」
「ああ、そこに」
 アグリアスは身体を若干ずらし、視線で部屋の隅を示す。視線の先にあるのは、卓の上に置かれた真白き衣装。二人は一斉に歩み寄り、穴が開くほど真剣に凝視した。
「上手にできているわね」
「ええ、手直しする必要なんてなさそう」
「だとすると、レーゼ」
「ええ。遠慮なく、作業ができるわ!」
 メリアドールとレーゼが手を取り合って、奇妙な盛り上がりを見せる。
 意図が分からず首を傾げていたアグリアスだったが、すぐに知れるところとなった。二人は示し合わせたかのように鞄を卓の下に置いた。中から、大小様々な瓶に筆、櫛にブラシ、陶器製の小物入れなどを、次から次へと卓に並べていく。卓の空いた空間すべてに道具を並べ終えると、二人は悪巧みする笑顔を浮かべた。
「折角の晴れ舞台、出席者が目を回すくらいに綺麗にしてあげるわ」
「私達に任せなさい」
 抵抗する暇もなく椅子に座らされ、顔に色々塗りたくたれ、下ろしていた髪をいじられた。

 一時間後、ようやく“作業”が終わった。
 会心の出来に、レーゼとメリアドールは満面の笑みを浮かべる。
 一方、アグリアスとしては、儀式に必要なこととはいえ慣れていないことをさせられたために、緊張の度合いが増した。
 顔の皮が一枚増えたような気がする…。


 上機嫌でメリアドールとレーゼが立ち去った後、アルマとラファがやってきた。二人とも、かつての旅暮らしでは考えられない程、綺麗な服を着ていた。
 それを口に出して言うと、
「アグリアスさんだって、人のこと言えないですよ」
「うんうん」
 逆に指摘された。
 確かにその通りかもしれない。
 己が纏っている白いドレスを見渡し、内心で頷いた。
「アグリアスさん、これ、ラムザ兄さんから預かってきました」
 アルマが差し出したのは、白野バラのブーケだった。早朝、わざわざ、ボコに跨って摘んできたものらしい。
「白が似合うってのろけてましたよ」
 わざとらしく顔を手で仰ぎながら、ラファが言う。
 しかし、アグリアスは別に思うところがあった。
 白は、彼の方が似合うのではないだろうか。どんな苦境にも、目を覆いたくなるような惨状にも、痛烈な裏切りにも心を曲げなかった。どれだけ血を浴びようとも、彼が彼たる所以は決して穢されなかった。荒んだ世では眩しく思えるほど純粋な心を、決して失わなかった。
 アグリアスは目元が和むのを自覚しつつ、ブーケを受け取る。最も純白な野薔薇を一輪抜き、アルマに手渡した。
「これを彼に」
「はい」
「じゃあ、わたしたちは花婿の出来具合を見てきますね」
「また後ほど」
 高く澄んだ笑い声を残して、二人は立ち去っていった。


 それから、アグリアスは暫く一人だった。揺れるヴェールを視界に入れつつ、両手で持ったブーケを眺めつつ、静かに時が来るのを待つ。
「時間よ」
 扉の向こうで聞こえたノック音に、彼女は立ち上がった。長い裾を踏まないよう留意しつつ足を動かし、外側から開かれた扉をくぐり、廊下を進み、“彼”が待つ場所まで歩む。
 背丈以上はある両開きの扉の前に、彼は佇んでいた。
 こちらを気づき、目を大きく見張る。
 沈黙が流れた。
「おかしいか?」
 苦し紛れに尋ねると、彼は大袈裟なほどに激しく頭を振った。
「とんでもない! とても綺麗ですよ」
「本当か?」
「ええ、このまま僕だけのものにするために連れ去りたいくらいです」
 言葉の意味を悟った途端、アグリアスは頬に血が昇るのを自覚した。暴れ出したくなるような恥ずかしさに襲われる。
「ちょっ、そっ、まっ…」
 低く笑う様が余裕を感じさせ、小憎たらしい。彼は、自分より四歳も年下なのに立場が逆転している。一体いつからこうなったのだろうか…。
「今夜が楽しみですね」
「…ばか」
 消え入りそうな声でそう呟くのが、精一杯だった。

- end -

2008.3.27

【あとがき】
 ウェディングドレスをアグリアスに着せてみたい!その一心で書き上げた作品です。
 妄想暴走作品その1である「ひそかな悩み」と同様、長編との繋がりなんぞ一切考えていません。全ては、ラムアグ好きのなせる技。妄想を突き進んだ結果です。
 日記での宣言通り、サイトにアップする際若干加筆しました。結果的に、より大人向けになった気がしないでもない。まあ、FFT獅子戦争は12歳以上推奨だし、このくらいなら許容範囲だろう。
 実はこの作品、「きみはひとりじゃない!」の一スレ「アグリアスにFFTシリーズキャラの服を着せるスレ」(08年11月2日、ギャラリー閉鎖)にも載せています。すると、なんと、絵心ない私に代わって、イラストまで描いてくださったのですよ。まるみさん、ありがとうございます。素敵な絵ですので、是非ともご覧ください。

追記:
 ウエディングドレス姿のアグリアスを、しあさんがドット絵で表現してくれました。わ〜い、思いがけないサプライズ、ありがとうございます。基本、おすまし、ブーケ持ち等、色々なアグリアスを楽しめます。こちらも是非ご覧下さい(2008.7.21)。
 しあさんのサイト(ブログ形式)→Blue of Terrene 分館 - FanFiction-

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